★田中一郎さん
古本屋で先に私が買った本のことは、まったく記憶にありません。
何だったのかなぁ?
道頓堀川で落とした思い出とのことですが、そういえば、ふたりで道頓堀の戎橋の上を通ったとき、誰かが道頓堀川に飛びこんだと騒然としていたことがありました。
私はそのまま様子を見ていたいと言い、田中一郎さんは、いつまでも居られないと帰られました。
警察関係の人が、ゴムポートを道頓堀川に浮かべて、先に鉤のついた長いロープを繰り返し繰り返し水中に投げ入れていました。
フグの1本釣りのような、そんな悠長なやりかたで大丈夫なのかと見ていましたが、人が引き上げられました。
2時間近く経ったと思います。
担架の上に乗せられた人物、シートがかけられていましたが、足がのぞいていて、小柄な女性のようでした。
戎橋の上のパトカーの後部座席に男性がひとり、うなだれたように座っていました。
翌日の新聞で、何かでもめたあと女性がいきなり川に飛びこんだということを知りました。
亡くなられたようでした。
そんなこともありましたね。
田辺聖子さんに「道頓堀の雨に別れて以来なり―川柳作家・岸本水府とその時代」という大阪の川柳作家を描いた本がありますが(面白い本ですが、分厚すぎて、上巻を読んだままになっています)、「道頓堀の雨に別れて以来なり」という川柳はいいなと思っています。
田中一郎さんとは、私が入院した際に、28年ぶりの再会となりましたが、雨がいきなり降ってきたので、挨拶もそこそこに解散したままの状態のような気分でいました。